コロナには負けない③-2 リスケ(借入条件変更)の検討 (実践編)

リスケ(借入条件変更)の検討 (実践編)

【 リスケを検討する前に 】

今回のコロナ災厄に際して、関係各省庁が金融機関等に対し呼びかけているものに
「リスケ」の検討があります。
リスケ(リスケジュール)とは、既存の借入の返済を、一定期間、減額あるいは
返済期間を延長する等の条件変更を認める(互いに合意する)ことです。
理由は、後で詳述しますが、個人的にはリスケ自体は決して積極的にお勧めはしません。
しかし今や「非常事態」ですから、「緊急避難」的に検討・依頼することも
ある程度、やむを得ないとは思っています。
リスケは、これまでご案内してきた制度融資や助成金等と違い、予め、一定のルールが
ある訳ではなく、基本的には、関係金融機関と各企業が個別に協議して、具体的条件を
手作りで決めていきます。
ただ、ある程度、詰めるべき点、金融機関として拘る点等があります。
今回は、その点を主体にご説明します。

【 リスケの本質・意義 】

リスケは「徳政令」ではありません。「返済の一時的猶予」が、その本質です。
決して、借金が棒引きされたり、誰かが代わりに返済してくれるものではありません。
つまり、所詮は、「問題の先送り」に過ぎず、借りた金額は全額返さねばならないもの、です。いつかは。
なお、昨今、一部で話題になっている所謂「永久劣後債(ローン)」等が
中小企業全般にも実現すると言う甘い期待を抱くことは禁物です。

リスケの効果は、言うまでもなく、一時的に返済する金額を、金融機関との合意に
よって減少させることです。
つまり、支出(キャッシュアウト、現金が出ていくこと)を抑えることにより、
当面の資金繰りを楽にすることが出来ます。

しかし、リスケの真の狙いは、その場限りの「金繰りの安定化」ではありません。
リスケの本質は「問題の先送り(支払できる迄、猶予期間を与えること)」
すなわち、「時間稼ぎ」です。
その与えられた猶予期間を活用して事業・資金繰りの再建策を策定し、
それを実行していく為のものと言うのが本来の趣旨です。
この辺りを十分認識せずに、ただ、当面の返済額を減らす交渉に体力の大半を傾注し、
それが実現したことで一安心したのか、肝心の再建への取組自体の進捗が見られなかった企業が、過去に散見されたのも事実です。

前回のリーマンショックの折には、法律まで制定されました。
所謂、金融円滑化法(2009年12月施行、2013年3月失効)です。
金融機関はリスケ要請に応えるよう努力することが求められました。
全国規模でリスケが大々的に実施されましたが、
その後、リスケを受けた先はどうなったのでしょう?

実は当時リスケを受けた先で、そのリスケ状態を脱して、所謂「正常化」を
果した企業はごく僅かでした。
大半の先は、未だにリスケを継続しています。
リスケ開始から、10年以上経過しているにも拘わらず、です。
また、一旦、リスケを受けた先は、リスケ状態のままでは、
金融機関から新たな借入が受けにくいと言う実態も見受けられました。
謂わば、リスケを受けた先は、生かさず殺さず、どちら付かずの取扱を金融機関から長期に亘って、受け続けてきたのです。

そう、リスケは、ある意味、「麻薬」です。依存性が強く、一度始めたら、なかなか抜け出せない。
一方で麻薬は、苦痛を鈍らせる効果があり、医療現場では鎮静剤として用いられています。
所詮、薬と毒は表裏一体。
「生きたリスケ」にするも、しないも、利用する企業の心構え(覚悟)にかかっています。

【 リスケの留意点 】

元金据置き(元金全額の返済猶予)については慎重に。

リーマンショックを超えると言われている昨今の経済の状況。
先の見通しが立たない現況下、極力支出を抑えたい、
出来るだけ手元に現金を確保しておきたいと思うことは当然のことです。
今は緊急事態ですから、金融機関も、初回は、元金のリスケの要請を
受け容れてくれる可能性は十分あります。
ですが、後で説明するように、
保証協会保証付き融資を利用している場合は保証料が追加されることがあります。
毎月の金繰りを見極め、また、家賃の減額交渉等他の支出削減策、
売上増加策も図った上で、少なくとも、次のリスケの見直し時には、
無理のない範囲内で少しでも元金の返済の一部再開することをお勧めします。

また、そもそも論として、仮に元金全額据置きしても、金繰りが回らない場合は、
リスケではなく、より抜本的な対策を講じる必要があります。
(例えば、増資、親族知人等からの低利融資、事業譲渡、M&A、休廃業 etc)
間違っても、高利のカネを借りることだけは避けてください。
自ら首を絞め、金融機関からも見放される懸念があります。

利息の取扱

理論的には、利息もリスケの対象として交渉することは可能ですが、基本的には、
金融機関は、元金と違い、これを嫌います。
金融機関の内規によっては利息のリスケ実施は、当該先を「不良債権」
(定義は各行により微妙に違いますが)と認定させ、
以後の借入が事実上不可能になる懸念すらあります。
いずれにせよ、元金同様、利息のリスケも、所詮、支払時期を延ばすだけであり、
金利自体が減免されることはありません。

金利の減免(引下げ)関係で、似て非なるやり方があります。
一部の金融機関では金利を引下げる代わりに、その分を元金の返済に充当します。
この方式ですと支払金額は変わらず着実に元金が圧縮されます。
採用を検討するに値いするやり方です。

リスケ期間

リスケ期間は、本来、短い程良いのですが、今は不透明な状況なので、
1年位は見ておく必要があるでしょう。
1年以上の長期のリスケ期間は原則として金融機関は認めません。
初回の交渉時は「とりあえず、半年間、元金据置にして、その後、状況をみて、
また、ご相談させてください」などと言ってくる筈です。
長い方が安心でしょうが、一方で、後述する保証協会保証付き融資の場合、
期間が延長されると、保証料の金額も上昇することに留意する必要があります。

リスケ期間後の暫定的返済条件について
仮に、「1年間は元金据置」で金融機関と合意したとします。
現実問題として、当初の借入条件の最終返済期日が1年後より先になる場合、
暫定的に残りの期間について返済条件を決めておく必要があります。
実際は、1年後に再び話し合って、その際に、当該暫定条件自体が見直される
こととなるので、大した意味はないように思えますが、
保証協会保証付き融資の場合、その条件の決め方次第で追加される保証料の金額が
後記のように大きく左右されます。

これには、様々なパターンがあり得ますので、ここでは詳細な説明を省きますが、
気になる方は金融機関と合意する前にご相談ください。

預金の取扱

金融機関は、原則として、固定制預金(定期預金、積立預金等)を取り崩し、
借入返済に充てるよう要求してきます。
状況の判断がつきかねる最初のリスケ時(現時点)はともかく、継続時等は
借入金利負担の軽減、借入元金の圧縮の観点から、検討する価値はあります。
いずれにせよ、金繰りを十分見極めることが肝要です。
安易に預金を借入返済に充てた結果、資金がショートすることがないように。

また、金融機関が一方的に預金を拘束したり、相殺することは違法行為となり、
出来ませんので、ご安心ください。
但し、金融機関からの話合いの申し出に応じない、延滞が重なる等の事態が続くと、
金融機関に相殺権が発生することがあります。
互い誠意をもって話し合いのスタンスを維持し続けることがポイントです。

返済額の横並び

複数の金融機関から借入れている場合、原則として各行に均等・平等に返済することが大原則です。
また、複数の借入がある場合も、原則として全て同じ基準で条件変更します。
全て元金全額据置きの場合は、この問題は起こりませんが、一部返済ですと、
その額を巡り、金融機関間で不平等が発生した場合、当該金融機関が応諾せず、
交渉が難航することがあります。

理想的な交渉の手順はいたってシンプル。
まず、メインバンク(原則、借入が最も多い金融機関)に相談し、その際、各金融機関の返済額も打合せましょう。
一般的には、全体の返済可能額を各金融機関の残高のシェア(比率)で按分して、
それぞれの返済額を決める方式が主流です。
これをプロラタ方式と呼びます。
そこで決めた各行の返済額の割振り表を持参して、それぞれの金融機関に交渉に行くことをお勧めします。
「メインバンクさんは、この線で行きましょうと言ってくれましたよ」
と言えば、効果的です。
(但し、メインバンクの座を争っている場合等は、言い方には配慮しましょう)

また、通常の民間商業金融機関以外の政府系や特殊銀行の場合、
必ずしもプロラタに応じないところもあります。

金融機関同士で、どうしても話し合いがつかない場合は、別途、県や市町村等公的機関に相談する手もあります。
手続き面を含め、若干複雑な部分もあり、詳細は別の機会に説明します。

手数料・費用 等

リーマンショックの際は、リスケに際し、事務手数料等をとるケースも見られました。
今回は通常の金融機関では殆ど見かけません。
しかし、保証協会付き融資の場合、原則として、追加の「保証料」が
請求される可能性があります。

もともと保証料は、基本的には「元金×期間」で算出されます。
上の算式のポイントは元金が「定期的に返済する約定」がされているか、否かです。
元金据置の場合、元金はそのままですが、これに定期的な返済条件を付けると、
6~7掛け評価で計算され、これに期間が掛け合わせられるので、
意外と大きな差が生まれます。
リスケした結果、元金を据え置くと保証料の計算上不利になるのはこのためです。
具体的金額は、事前に金融機関経由で保証協会に照会することが出来ます。
特に借入残高が多額だと保証料も想定以上に多額となり、
資金計画自体が狂いかねない事態も生じますので、要注意です。
したがって、リスケ期間も最初から1年でなく、半年以下にするとかの工夫も
場合によっては必要です。

要は、上記の算出ルールを理解していると、色々と返済方法を工夫することで、
リスケ当初の追加保証料を抑えることが出来ます。
やや説明が専門的且つ複雑になりますので、関心ある方は個別にご相談ください。

また、借入形態(証書貸付、手形貸付等)によって、
リスケによる条件変更の約定形式も異なり、印紙代もかなり違ってきます。
これについてもケースが色々分かれてきますので必要に応じ、別途説明します。

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