事業再構築補助金シリーズ  根抵当権問題 part 1

ここでは、所謂「根抵当権問題」について解き明かします。

何かと話題の「事業再構築補助金」ですが、岸田政権の「新しい資本主義」の中でも採り上げられ、(例えば、新しい資本主義実現会議の緊急提言等)また令和3年度補正予算案でも内容を改訂しつつ継続されることが示されています。  

その事業再構築補助金を巡って、一部で「炎上」が起こっています。

所謂「根抵当権」問題です。

これを一言で要約すれば、「補助金で建てた物件には、根抵当権を設定することが出来ない」と言うルールに端を発した関係者間の騒動劇です。

しかし、必ずしもその議論は正確な知識、認識に裏付けられたものでなく、一部では誤解による、あるいは感情論的な議論が起こりました。

「金融機関はけしからん」とか「補助金事務局の無知・無理解により本補助金は実質使えなくなった」とか。

この辺りの事実関係や根拠となる法律・ルール・考え方等を一つ一つ丁寧に見ていき、本問題の本質と採るべき対応策を考えていきましょう。

幕開け 「根抵当権」問題の表層的勃発

コロナ対策として鳴り物入りで始まり、世間の注目を浴びた大型補助金「事業再構築補助金」。

ところが、その「公募要領」に次の記載があったことから、問題視する人達が出てきました。

「補助事業により建設した施設等の財産に対し、抵当権などの担保権を設定する場合は、設定前に、事前に事務局の承認を受けることが必要です。補助事業遂行のための必要な資金調達をする場合に限り、担保権実行時に国庫納付をすることを条件に認められます。なお、補助事業により整備した施設等の財産に対して根抵当権の設定を行うことは認められません。」(1次~3次公募までの文面)

何故、問題視されたかと言えば、この補助金が中小企業向け補助金としては珍しく建物等の「建設費」が補助対象になったことです。

経済産業省関係者も、この辺りを大いにアピールしていました。

一方、多くの事業者は金融機関との間に既に根抵当権を設定している事実が厳然として存在しています。特に、この補助金がコロナで困窮している事業者~例えば、旅館・ホテル業者等の大半はそうであり、この機会に補助金を活用して改装・改修をしようと計画しても、現実的には、この条項がある為、補助金申請を断念したケースも多いと謂われています。

「これじゃ、補助金の意味ないじゃないか!」と噛みつく人が出てきました。ここに根抵当権問題が勃発したのです。

・(普通)抵当権: 特定の債権を担保するもの
当該債権が消滅(完済)すると抵当権も消滅 (付従性)
 当該債権が譲渡されると抵当権も譲受人に移転(随伴性)
の特徴がある。

・根抵当権: 極度額(上限額)及び「債権の範囲」内で担保するもの
       上記の付従性・随伴性はない

元本確定まで、極度内で将来発生する債権も含め担保出来る。

抵当権が借入の都度設定しなければならないのに対し、極度内なら何度でも借入出来るので、継続的事業で経常的に借入が発生する事業者にとっては、根抵当権の方が、費用・手間等勘案すればベターであり、現実に多くの企業が利用している。

補助金適正化法の存在

そもそも、政府・各省庁等が行う施策としての補助金には、その適正な活用を定めるための法律が存在しています。

「補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(「補助金適正化法」と略す)」がそれです。

1955年に制定されて以来、時代の状況に合わせ何度も何度も改訂されてきた法律です。

そこに「財産の処分の制限」条項があります。

第二十二条 補助事業者等は、補助事業等により取得し、又は効用の増加した政令で定める財産を、各省各庁の長の承認を受けないで、補助金等の交付の目的に反して使用し、譲渡し、交換し、貸し付け、又は担保に供してはならない。ただし、政令で定める場合は、この限りでない。

因みに、上で言う政令で定められた「処分制限を適用しない」ものは「補助金全額を国庫納付した場合」「耐用年数等勘案して定める期間経過した場合」です。

つまり、上記「公募要領」自体はこの法律の趣旨に即したものと言えます。

この立法趣旨は明らかです。

税金を原資とする補助金でゲットしたものを勝手に処分する等、本来の目的以外に使っちゃダメよ!と言うことですよね。

当該物件を勝手に売って、その代金を懐にしてはいけません。担保に提供することも結果として、それで資金が手に入りますよね。

至極もっともなルールと言って良いと思います。

しかも、昨日今日定められたルールではなく、

事実、大企業を主たる対象とする補助金等の公募要領では従前から、上記財産処分制限条項について同旨にて言及されています。

したがって、

「今更」何で騒ぐの?何が問題なの?

と言うところが、経産省~中小企業庁側の本音でしょう。

しかし、冷静に考えてみれば、そもそもこの件は当初から、相対立・矛盾する問題を内包しているものでした。

即ち、自己の債権を保全しなければならない金融機関等の担保権等保全措置と税金の適正活用が求められる政策当局の取扱は過去にも至る所で対立してきました。

コールセンターの対応の拙さから問題が大きくなった

先に見た様に、中小企業の補助金としては珍しく建設費が対象となった為、今まで意識されてこなかった根抵当権の存在に俄かに注目が集まり、先に見たような議論が起こったのです。

これが本年3~4月頃のことです。

ところで、この騒動に輪をかけることになったのが、本件に関するコールセンターの対応でした。

当然のことながら、上記の取扱に驚いた申請希望者(事業者)や支援者(コンサル)の質問等が本補助金の事務局(パソナ)~コールセンター(トランスコスモス)に殺到します。 ( )内は委託先名。

註:本補助金事業は独立行政法人 中小企業基盤整備機構が補助事業者(基金設置法人)となり、(株)パソナに業務委託しています。420億9672万円と言う委託費も話題になりました。

更にシステム、コールセンター、広報関係業務は再委託され、内コールセンター関連業務を受託したのが、トランスコスモス(株)でした。契約金額は39億2479万円。

そのコールセンターの本件に関する対応がお粗末の一言に尽きました。

まず、この問題に関する当局・事務局・コールセンター側の認識が低く、特に、担保実務や基本的な不動産取引に関する十分且つ正確な知識装備・検討がないまま、勿論、回答を統一することもなく、安易なスタンスで臨んだ為、大混乱が起こりました。

対応するコールセンター担当者により回答がバラバラでした。
「納得いかず複数回質問したが、毎回、回答が違う」と言う声も聞かれました。

また、第1次公募で採択された事業者がいざ、実際に各種手続きを進めようとして、コールセンターに照会し、その回答内容では補助事業自体の遂行が難しくなる事例も起こり、更に問題が大きくなりました。やがて、回答は一旦統一されたのですが、それが実態を軽視したもので、法的にも違和感が強い内容となっていきました。

当時のYou TubeやSNS等でアップされていた、その際たるものをピックアップしてみましょう。


1.土地にも根抵当権が設定されていると交付決定が取り消しになる。
2.テナント店舗を改修する場合にも、テナント店舗自体に根抵当権が設定されている場合には、交付決定が取り消しになる。
3.根抵当権の設定の有無は実地検査で確認し、根抵当権が設定されている場合には、
交付取り消し処分になる。
知らなかった等の言い訳は通用しない。
4.根抵当権が設定されているテナント店舗や土地の場合には、根抵当権を抹消してから
交付申請するのが原則である。

建物はおろか補助対象外物件である土地への根抵当権設定もダメ。

更にテナントさんが本補助金を使って賃貸物件の内装・改装することも、そのオーナーが根抵当権設定しているとダメ。

と、言うのです。

更にトランスコスモスさんによる回答は過激化して、最も極端な例では、「上記店舗内に補助対象設備を設置することもダメ」とまで言い出した時は唖然としました。

店子が貸主の抵当権設定を調査するのも無理難題で、まして、店子が、その解除を要求することなどどう考えても非現実的です。

勿論、金融機関も当該担保が設定されている前提で融資等を行っており、その残高が相当程度残っている限り、根抵当権の解除に容易に応じないのは当然のことです。

また、この取り扱いが万一常態化すれば、根抵当権を設定している貸主は借主を探すのに苦労することになってしまいます。

そして、多くの貸主は物件の取得費、改装費、各種設備費そして運転資金調達の為に根抵当権を設定することが当たり前の世界です。

これは正に「坊主憎けりゃ、袈裟まで憎い」様相です。

最早、彼らが、担保実務や不動産取引の実態を把握していないこと乃至意図的に目を瞑っていることは明らかでした。

実態を無視し、明らかに公募要領や法令の拡大解釈を行い、むしろ本補助金及び補助金適正化法の趣旨を捻じ曲げるものと言っても過言ではありません。

もし、全てを把握・認識・理解した上で敢えて上記の回答対応を行っていたとすれば、最早、補助金業務実施機関としては自殺行為に等しいものです。(事実上、本補助金は使えなくなるのですから)

ここに、「根抵当権問題」が関係者間で大炎上するに至るのです。

金融機関の立場

一方、今度は金融機関にも批判の矛先が向けられます。

金融機関の担保実務としては、土地とその上に建てられた建物を一体のものとして担保(共同担保)にとります。たとえ、その取得費・建設費を融資していなくても。

批判の内容はこうです。

「既存の根抵当権設定物件の解除が難しいのはまだ理解出来る。

しかし、土地について購入費を借りた際には当該土地に根抵当権は設定したが、何故、融資を受けることもなく補助金で建てた建物に対し、金融機関はその建物も担保に取ろうとするのだ。強欲過ぎるだろう。火事場泥棒じゃないのか!」

と。

続く…

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